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Friday Column

No.126

『マスタリングおわりますた』

さて、11月末のベスト盤『IDEAS』発売告知にバンドライブツアー『NO IDEA』公演日程発表と、サイト上ではにわかに動きが見えてきた杏子の吾郎ですが、皆さまはいかがお過ごでスキャットマンジョン。当サイトではこの後も、ベスト盤に入る新曲『IDEA』の【段階的試聴】、有料サイトでは『クイズ・100問も聞きました』ファイナルコンペ開催、『弾き語りばったり#5 振りかぶり』記事アップなど小刻みな動きが続きますのでお楽しみに。

そんな先週末、音源製作の最終段階である【マスタリング】が終わりました。【マスタリング/Mastering】とは、CDプレス工場に持っていくマスター音源を作るってことなんですが、これが【トラックダウン/Track Down】以上に説明が難しい作業でして。あ、そういえば【トラックダウン】についてはいつか機会がある時にゆっくり説明させていただきます、とかなんとか前に書いたような気がしますが、未だ説明してないような気もしますので、今回【マスタリング】を説明する前段階として【トラックダウン】についても解説しておくいい機会なのでそうします。ちょっとめんどくさいですけど。めんどくさいってのは、私が文章を書くことをめんどくさがってるわけではなく、お読みいただく皆さんがちょっとめんどくさい思いをするかもよ、ということです。

最近はハードディスクでの録音が常識的ですが、これはかえってイメージしにくいので、ちょっと昔の“テープ”で説明します。1本のテープが進行方向に平行に複数のトラックに分かれていることをイメージしてください。ちょうど陸上競技のトラックと思っていただければいいです。レコーディングでは“トラック”とほぼ同義語で“チャンネル”という言い方もあり、その使い分けは人と場合によりますが、ここでは“トラック”で話を進めます。1本のテープが、例えば48のトラックに平行分割されているとします。このテープを『マルチトラック』=通常略して『マルチ』と呼びます。このマルチに、ドラム・ベース・ギター・ピアノ・シンセ・歌・コーラスなどを順次録音していくわけですが、ドラムと言ってもそれを1トラックに録音するわけではなく、バスドラ・スネア・タムなどの太鼓ひとつひとつにマイクを、場合によって表と裏にもマイクを、シンバルにも個別にマイクを当て、さらにはドラムセットの上のほうに全体の“空気の鳴り”を録る“オフマイク”というものも含めると、叩く人・録る人のやり方にもよりますが、だいたい10〜12くらいのマイクがセットされ、それぞれのマイクを個別のトラックに録音しますから、ドラムだけで10〜12トラックくらいは使います。コンピューターを使ったサンプリング音源でドラムを録る場合も、基本的に1音色1トラックを使います。ベースは単独の場合もありますが、ライン直の音とアンプを通した音を別トラックに分けてバランスとることもあり、また、シンセベースの場合も2〜3種類の音をミックスするケースが多くあります。ギターは音色やフレーズによってステレオ(2トラック)だったりモノラル(1トラック)だったりですが、複数の違う音色やフレーズを重ねて録音することも多くあります。ピアノはサンプリング音源であれば通常ステレオ(2トラック)ですが、生ピアノの場合は録る人にもよりますが、だいたい3〜5本のマイクをセットしてその分だけのトラックを使用、という感じでドラム・ベース・ギター・ピアノのベーシックだけで少なくとも20トラック前後は使うというわけです。ここに、複数のシンセ音、曲によって管楽器や弦楽器が入って、最後に歌・コーラスですから、48トラックなんてすぐにいっぱいになる感じです。

私がデビュー盤を録音した86年当初のマルチはまだ幅の広いアナログテープでトラック数は24。録音する音色数が多い曲ではトラックが足りなくなり、別のレコーダーでもう1本のマルチ(スレーヴ)を同期させて録音していたものでした。90年代に入り、時代はデジタル化して48トラックが常識になります。最近はもうテープは使わずハードディスクに取って代わりましたので、やる気があって頭の中での整理がつくならトラック数は無限大です。ちなみに、コンパクトな録音・再生を可能にして一般化した『カセットテープ』、あれは、あの細いテープが4本のトラックに分割されていて、うちわけはA面ステレオで2トラック、B面ステレオで2トラックで、A面を再生する場合は2トラックだけ、つまりテープの半分だけにヘッドが接触し、カセットをひっくり返した逆方向がB面という、今思えばかなり斬新な発想によるシステムだったんですね。

話を戻します。『マルチ』の各トラックに個別に録音された音色ひとつひとつに、曲の完成形をイメージしながらエフェクト(効果的加工)を施したり、右とか左とか奥とか手前とか音の位置関係も調整しながら、2トラックのステレオにまとめる作業がいわゆる【トラックダウン】。CDのブックレットに『Mixing Engineer』とか『Mixed by』とクレジットされている技術者の最も重要な仕事のひとつです。すべての音を録音して歌も歌い終わった私には完成音源のイメージがはっきりありますから、何をどうやったらそうなるんじゃないかという機材的・技術的なことをある程度は把握した上で、「もうちょっとこう」とか「もっとこんな感じ」とかいちいち注文をつけるこうるさい監督になります。私の作品の場合のトラックダウンは、1曲あたりスムーズにいっても平均10時間くらいかかります。・・・とここまでが、たいへん大まかですが【トラックダウン】の説明でした。多くの場合【TD】と略して言い、【ミックスダウン】【ミックス】も同義語です。

で、今回の本題の【マスタリング】の説明に入ります。最初にも書いたように【トラックダウン】されて2チャンネルのステレオになった音源で、CDのプレス工場に持っていく“マスター”音源を作ります。作業的には、特定の音域を強調したり減少させたりする『イコライザー』の他に、『コンプレッサー』やら『リミッター』やらの機材を通して音を調整し、最も納得の行く音像に仕上げるわけですが、これがねぇ、何をどうやってるってのか頭では理解できるんですが、感覚的に真の意味で把握しきれないというかなんというか。私もかれこれ20年、全アルバムちゃんと参加してるんですが、未だにそんな状態なんですね、【マスタリング】に関しては。

レコーディングの最初の段階から【トラックダウン】までは、基本ひとりのエンジニアでやりますが、この【マスタリング】は別なんです。もちろん【トラックダウン】も【マスタリング】もひとりでやるタイプのエンジニアもいるらしいんですが。このあたりに関してもなぜ普通は別なのか、ということを明確に説明せよといわれたら「えぇぇっと、えぇぇぇっと」となってしまうでしょう。私の感覚ですけど、たぶん、ウルトラタブンですけど、あるひとつの楽曲の音源を“トーテムポール”に例えるとします。作曲・編曲・録音そしてトラックダウンが、“トーテムポール”全体のデザイン構成をして顔を彫ったり色をぬったりする作業だとしたら、【マスタリング】ってのは、その木の断面を見て、その年輪の目を調整するみたいな、・・・いや、違うな、そんなんじゃない、じぇんじぇん違いますね。うぅぅぅ〜ん、とにかく楽曲に対する、音源に対する脳の切り方が違うというか、なんだかますますわかりにくくなってますが、とにかく未だに文章ではうまいこと説明できない、そんな作業なんですよ、【マスタリング】ってのは。ね、読んでるほうがめんどくさくなっちゃったでしょう。そこんとこは私の言ったとおりです。(ここに来てやや開き直り気味)

今回のベスト盤『IDEAS』のマスタリングエンジニアは、『何の変哲もないLove Songs』『遥かなるまわり道の向こうで』と最近のアルバム2枚をマスタリングした松永健司さんです。今回収録される音源は、録音された時代がバラバラ、【トラックダウン】したエンジニアもバラバラ、そんなバラバラな17曲を、お聴きいただく皆さまが良い音質で心地よく聴けるような1枚のCDにまとめるわけですから、通常のアルバムとは違いかなりめんどくさ〜い【マスタリング】です。そんなめんどくさ〜い作業にも松永さんは悪びれることなく、ふてくされることもなく、終始笑顔で作業をすすめます。ってゆうか、マスタリングするのに悪びれたりふてくされたりする人はいませんけどね。


作業する松永健司さんの横顔

作業は『Sonic Studio HD』というマスタリングソフトを中心に行われます。複数のレコードメーカーから集められた音源を、コンバーターでアナログ信号に変換して、イコライザーやらコンプレッサーやらリミッターやらで調整しながら、再び別のコンバーターでデジタル信号に再変換したら今度はデジタルのコンプレッサーで・・・・、いろいろと説明してくれました。そのシステムはわかりますよ、頭ではね。ミルポワしたレギュム上にロティしたアニョをのせたらシノワで越したフォンとヴァンルージュを煮詰めてバターで仕上げる、みたいなもんです。なぜ一旦アナログにするのかやどんな機材を使うかなどは、エンジニアのやり方・好みによっていろいろだそうです。それもわかりますよ。私だって鉄のフライパンとテフロンパンは状況に応じて使い分けてます。

そんな感じで1曲目から順にマスタリングが進むわけですが、松永さんに「少し歌を立たせて、各楽器の粒が見えやすく、若干広がりが出たと思います」とか言われたりして、その場で調整前の音源と聴きくらべたりすると「なるほど」とその違いはわかるんですが、ただそれを「なるほど」と聴くだけで、「もう少しこうしたい」と思っても、「なにをどうしてこうすることによってこれをこういう雰囲気にしてください」なんてことを具体的に言えないんですね。もちろん意志はなんとなくでも伝えますけどね。まぁそんな感じで曲毎に松永さんの説明を聞いて、その音を聴いて、時には調整前のものと聴きくらべたりして、「なるほどねぇ〜」とディレクターさんの顔を見ながら「いいっすよね、OKですよね」と同意を求める、そんな感じなんですね。作曲とか編曲とはちょっと違う意味での“いい耳”を持ってないと決断できないというか、そんな作業なんですね。でも実際、この【マスタリング】によってグッと立体感が出たり、歌がスーッと抜けてきたり、明らかに音像が変わるんですね。だからこその【マスタリング】なのです。・・・たぶん。


頭ではわかるんだけどな

そんな感じで一曲一曲音を調整して17曲すべてを仕上げたら、最後は曲間の秒数、つまり曲が終わって次の曲が始まる“間”を決めます。これはもう感覚の問題ですし、どっちかっつうと“間”は専門ですから。「あと2秒空けて」とか「半秒つめて」とかいいながら、約13時間、やっとマスタリングが終了。これで音に関する私の仕事は終わりました。あとはプレスよろしくってことです。

今回は【マスタリング】の話でしたが、結局うまい説明ができないままですみません。最近のヒップホップ界には作曲からマスタリングまですべてひとりでやってのける“トラックメイカー”なんて人が存在するんですから、おどろきもものき御前崎です。しかし【マスタリング】という作業を誰にでもわかりやすく説明できるという方がいらっしゃるのであれば、その説明を聞いてみたいものです、逆に。(再び開き直り、しかもやや悪びれ系)

ベスト盤『IDEAS』のステキなジャケット写真撮影は先々週末に終わり、現在はパッケージ・ブックレットの製作段階にあり、デザイナーさんとの打ち合せを繰り返しながら、私は初回特典ブックレットの全曲解説原稿をほぼ書き終える、そんな感じです。選曲などに関してはいろんな思いがありますが、発売後しばらく経ってからなんかの拍子になんやかんやと書きたいなと思っています。発売までまだまだ日がありますが、いろんなこと含めて楽しみにしていただければなぁ、と思っています。(最後は低姿勢)

2007/10/12



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