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Friday Column

No.313

『KAN×昭和音楽大学管弦楽団 後半』

はい、東京は雨続きですが皆さまはいかがおすぎとピーコ。5月1日にテアトロ・ジーリオ・ショウワで行われた【KAN×昭和音楽大学管弦楽団】を観に来ていただいた皆さま、あらためてありがとうございました。今週は先週に引き続き、このコンサートの後半を振りかぶります。演奏曲目を別ウィンドウに表示してお読みください。


後半は、組曲『夢の花 大連幻視行』から始まります。
これは説明すべきことがたくさんあります。1986年、日本を代表する映画監督のひとり・大林宣彦監督に御依頼いただき、映画『おかしなふたり』の音楽を作らせていただきました。そして翌87年、デビュー直後の私に再び大林監督からいただいたお話が『夢の花 大連幻視行』の音楽製作です。

大林監督の出身地であり、数々の素晴らしい大林作品の舞台ともなった広島県尾道市と、中国東北地方・遼寧省の大連市が“友港都市”であるってことで、87年10月に尾道市で『大連・尾道友港博覧会』が開催されることになり、そのメイン会場で上映される、大連の街を紹介するショートフィルム『夢の花 大連幻視行』を大林監督が製作。その音楽を私がやらせたいただく事になったのです。

とはいえ、当時24ちゃい、まだ半ズボンにニーソックスだった私は日本を出たことなど1度もなく、「中国っつったって、ブルース・リーしか思いつかないしなぁ・・」ってことで、大林監督に「是非、一緒に連れてってください」とお願いしたところ、御快諾いただき、中国・大連での撮影に同行させていただきました。つまり、私の初海外はこの時の大連だったのです。そしてそれはその後の私の思考や志向や嗜好に大きな影響を与えることとなり現在にイタルタス通信。

出演は原田貴和子さんと浅野愛子ちゃん。私は連れてってもらったはいいものの、現地ではこれといってやることもなく、ただただ初めての海外で見るもの見るものにイチイチ大きく反応するばかりでした。で、とにかく撮影についてまわって、時にはカメラマンのアシスタントのアシスタントになり三脚やバッテリーを運んだりしてました。そういうのもやってるうちにだんだん楽しくなって来て、勝手に責任感なんかもでてくるもんですね。カメラマンの坂本善尚さんも最初のうちは「ピアニストに重いもの持たせちゃダメだよぉ」なんておっしゃってましたが、最終日、ほんの1分で画や光が変わってしまう夕陽の撮影時には、「バカヤロー、早くしろぉ!」なんて怒鳴られたりしながら走ったりする私でした。ま、とにかくそんなこんなの大連滞在中に25歳の誕生日を迎え、帰国後にすぐに作曲したのが『夢の花 大連幻視行』のサウンドトラック4曲です。

当時は、すべてピアノとシンセサイザーによる録音でしたが、あれから24年が経とうとする今回、それらをすべてオーケストラ用に編曲して、87年に博覧会で映像を御覧になった方を除けば、初披露となったわけです。ならば、と、大林監督の事務所に連絡して、観に来ていただけることになりました。

では、曲解説です。
組曲『夢の花 大連幻視行』
10. 貴和子のテーマ
中国人なのか、日本人なのか。現代の人なのか、少し昔の人なのか。現実なのか、幻なのか。そんな女性を演じたのが原田貴和子さん。はい、知世さんのお姉さんです。大林監督作品では『彼のオートバイ、彼女の島』で主演しています。いやぁぁぁ、美しい人です。91年に水野真紀さんが登場するまでの約4年間ずっと、原田貴和子さんは私の美人ランキングのトップでした。そんな“貴和子”像と、大連の街にゆらゆら揺れるアカシアをイメージしたピアノ曲です。

11. 愛子のテーマ
そんな“貴和子”とは対照的に、東京から全日空のBOEING 747に乗って大連にやって来たリアルタイムの女の子を演じたのが浅野愛子ちゃん、当時17ちゃい。大林監督作品『漂流教室』の主演女優さんです。パーカッシヴなシンセサウンドで、ポップでキュートでちょっぴりトリッキーな“愛子”を表現した曲です。それを今回、クラリネット・サックス・マリンバ・ヴィブラフォンなどを駆使したオーケストラアレンジにしてみました。

12. 工場と住宅地
撮影滞在中、大連市側から「是非、ここを撮って日本に紹介してください」と強く勧められたのは、鉄道や造船の工場、そして小高い丘に建ち始めた庭付き一戸建ての住宅群でした。前半は管弦一体となった力強いユニゾンメロディに銅鑼の連打で一方的に押しまくり、後半は夕暮れの高台から大連の街を見下ろすソプラノサックスのソロ。そんなイメージの曲です。

13. 夢の花 大連幻視行
このショートフィルムのメインテーマ。3拍子と4拍子を混在させたピアノ曲に弦楽器で徐々に厚みをつけながら、街のアカシアの優しい揺れが、いつか黄海の静かな波と重なり、その海を越えた遠く向こうに日本がある。そんなことをイメージした優大なピアノ・管弦楽曲です。

と、このような4曲をあえて“組曲”ってことにして、クラシックコンサート風に4曲すべて終わるまで拍手しちゃいけない、ってことで演奏しました。

14. オー・ルヴォワール・パリ
そして、やっと私の歌もの楽曲に戻ります。最新アルバム『カンチガイもハナハダしい私の人生』の収録曲で初の生演奏です。レコーディングでも、すべての楽器を生で録音していますが、今回はアコーディオンのかわりにバイオリンのソロを、後半は管楽器をプラスしてCDよりもより大げさにアレンジ。ピアノは矢代さんに任せて、私はシャンソン歌手になりきって、やや演技がかりながら歌唱しました。「アルバムで聴いた時は正直ピンと来なかったけど、今回、生で聴いてすごく感動しました」な〜んてメールを札幌の番組にいただけたのはたいへんにうれしいことです。

15. 愛は勝つ
09年のNHKの番組『あなたの街で夢コンサート』で一度、フルオーケストラで演奏しましたが、その時の反省も含めて、再度編曲し直しました。木管楽器に弦楽器が絡むイントロの後、私のピアノ弾き語りで歌が始まり、弦楽器が徐々に厚みをつけて、間奏で全楽器がドカ〜ン。その後、バンドをベースにした重厚なオーケストラサウンド、というドラマチックな展開です。編曲していて思いましたが、ま、自分で言うのもなんですが、これ、ソートーに優れたメロディだと思いますよ、えぇ。しかし、いかんせん歌い手のジャニーズ系ルックスがどうしてもその音楽性を露呈させないんですかね、やっぱり。曲の最後はティンパニーのん連打で一旦劇的に終わったと見せかけておいて、私が深々とお辞儀をしようとする時に、オーケストラが「ドコドコドン、ジャン!」と時間差オチをつけます。私としては、ここでズボンがストンと落っこちるイメージなんですけどね。ま、そういう意味ではまだ初心者ですし。これからの学生さんにヘンな影響だけ与えちゃってもねぇ。

16. 小学3年生
やっぱシメはコレでしょう、なんつったって、ねぇ。ビッグバンドジャズナンバーであるこの曲を、レコーディングでは管楽器8に対して弦楽器2くらいのイメージでアレンジし録音しましたが、今回は音符の数的には管楽器5:5弦楽器。で、演奏は管楽器6:4弦楽器、そんなイメージで編曲し直しました。オーケストラの皆さんも楽しげにスウィングしてくれてとてもよかったです。

17. 世界でいちばん好きな人
シメのシメです。弦楽器のアレンジはレコーディング時にできていたものを数カ所書き直し、後半には、オーボエ・クラリネット・ファゴットの木管楽器による、CDには入っていない裏メロハモを、展開部のCメロからはハープを追加しました。

という全17曲の編曲は、それはそれはたいへんな作業でしたが、いわゆるコンピューターのアプリケーションの類は一切使わず、五線紙と下敷きと定規とシャープペンシルと消しゴムだけでやりきったことは現代においてかなり有意義だったと思えます。

さぁて、御紹介が遅くなりましたが、指揮は福本信太郎先生。もちろん指揮自体も素晴らしかったのですが、いちいちヘンな回転をかけながら左右に散らす私の球を必死かつ丁寧にレシーブする姿は、またじぇんじぇん別の感動を与えたことでしょう。コンサートの最後に客席からあがった「シンタロウちゃ〜ん!」のコールがそれを証明しています。

このコンサートをやって思ったこと、それはやはり「指揮者になりてぇ」です。うん、音楽やっている以上やはり「指揮者になりてぇ」、そんな思いが更に強くなりました。でもなぁ・・・、人間性なんだよなぁ・・、問題は。

では最後に、私自身の今後の音楽活動に繋げるために、忘れないように反省点を書いておきます。

まずは、楽器によっての知識・感覚の偏り、弱点がハッキリしました。弦楽器はレコーディングで編曲・録音の経験を繰り返してますので、譜面を書きながらそのハーモニーがどのように響くのかは、だいたい頭の中でイメージできるんですが、それに対して金管楽器はまだまだ経験値が低く、もっともっと勉強せないかんなぁ、と感じました。もともとオーボエやクラリネットなどの木管楽器の音は大好きなので、それらのフレーズ・メロディは自然に湧いてきますし、そんな楽器を演奏するお嬢さんを無意識にヒイキしてしまう傾向が端から見て顕著に表れすぎてるらしい私ですが、金管楽器については頭でかなり考えてフレーズを作り出し、しかしそれがどう響くかは実際に鳴らしてみるまでわからない、そんな感じでした。特にホルンは音域も広いですし、強弱によってさまざまな音色を出せる楽器ですから、このホルンを如何に上手く使いこなせるか田舎が、次に向けての大きな課題のひとつだと言えます。

そして、ハープ。これが最も未知でした。ハープと言えば広い音域をトゥルルルルルルルル〜〜ンと鳴らすイメージがありますが、あれ連発しちゃうとどの曲もみんな同じ雰囲気になっちゃいますから、今回トゥルルルルルルルルルル〜〜ンは必要最小限に留めました。じゃぁ、それ以外にハープをどう鳴らしどう活かすのか、これが今後に向けて最も克服すべき難題のひとつであると言えます。そのためにはまず、ハープを弾く美しいお嬢さんとオシャレなカフェでお茶することから始めるべきではないかと真剣に考えます。

でもやっぱ、ハープっつったら黒髪のお嬢さんですよね、えぇ。今回もイメージどおりでしたよ。そうでなきゃねぇ。だってそうでしょう。コンサート観に行ったらハープがスタレビュのVOH・林さんだったらどうします? いや、VOHさんが悪いわけじゃないですよ、VOHさんはツボを押さえて無駄打ちしないたいへんに素晴らしいパーカッショニストです。でも、ハープは弾いてほしくないでしょう。わかるかなぁ、オレのこの気持ち。

えぇぇぇっと、何の話でしたっけ。あ、反省ですね、反省。はい、思い出しました。

オーケストラを編曲、演奏して思ったことは、楽器それぞれの演奏の強弱はもちろん、バランス・音色までをも譜面上で書き表わさなければならない、ということ。これはたいへんに難しい課題です。私がこれまでやってきたレコーディングでは、いい音でいい演奏が録れさえすれば、楽器ごとのバランスや微妙な音色の調整は、あとでミキシング時にエンジニアにあれこれ注文つけてやってもらえるわけですが、オーケストラの生演奏の場合は、譜面に書き記す強弱や奏法だけでなく、楽器の編成人数が直接その楽器の音量になるわけで、曲ごとに各楽器のバランスを考えて編曲・編成しなければならないのです。これはつまり、アレンジとミキシングが同一の作業だということなのです。ガァぁぁぁぁん、いやぁぁぁぁ、まいった。どうしましょう。でも繰り返し経験を積めば決して無理なことではないと思えます。そのためにはまず、いろんな楽器の美しいお嬢さんとオシャレなカフェでかわるがわるお茶することから始めるべきではないかと真剣に考えます。

というわけで、先週・今週と実際にコンサートを観ていただいた方以外には、何を言ってるのかちんぷんかんぷんな内容だったことはいなめなめなめなめませんが、じんぶんだっぷんよりはまだマシだと解釈していただき、なにしろとにかく音楽家としてたいへんに重要な経験をしまくった今回のコンサートであったんだなぁ、ということくらいは伝わっていればと思います。

とにかく、年を跨いだ大きなヤマがひとつ終わりました。あぁぁ、なんか、ガツンとヘビーなロックンロールをソウルフルにフェイク&シャウトしてぇぜ。そんな今日子の吾郎、週末は半年ぶりにゴルフ!

2011/05/13



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