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Friday Column

No.066

『小さな勇気が“とんかつ”を変える』

東京、停電しましたよ。時間は短かったものの規模的には“東京大停電”といってもいいのかもしれません。朝起きてなんとなくぼぉ〜っとテレビを見ていたら突然プツッとテレビが消え、ひゅ〜んとエアコンが止まり、「ありゃ?ブレーカー落ちたか?」と思い見てみましたが、おおもとの電源スイッチは通常の状態のまま。「特になんも使ってないしなぁ・・」。しばらくしてもなにも変化がないので表へ出てみると、交差点の信号も消えててお巡りさんがふたり。「お宅も?」「3丁目も停電みたい」「どうしたんでしょう?」ってな感じで近所の奥様も集まっていました。そのうち「新宿区も浦安もですって」「東京電力もこみあってつながらないって・・」「失礼しちゃうわねぇ」。そこに混ざっても仕方がないので家に戻ってしばらくするとプツッとテレビがつき、これといったダメージも受けずに通常の生活にもどりました。

この間ほんの20数分だったので問題なかったんですが、これが数時間続いたら東京は軽〜くパニックだったでしょうね。うちの場合は、まぁ8月ですからエアコンつかないのは結構キツイでしょうけど、2003年パリでの死者1万人越えの記録的猛暑を経験しているので、あん時にくらべりゃへのかっぱです。ガス湯沸かし器も電気制御されているのでお湯はでないものの、最悪、水シャワーでもなんとかなるし、ってゆうか水は出るんでだいじょぶでしょう。インターネットができなくなっても、このサイトに関する仕事は多少遅延するかもしれませんが「だってしょうがないじゃん」で済まされます。困った問題があるとすれば冷蔵庫。これが長時間働かないとその後の処理がけっこうたいへんそうです。まぁ、でもその程度のもんです、うちは。

テレビを見てて気づいたんですが、高層建築の上層階は電気式のポンプで水を上げているので、水道も出なかったそうですし、エレベーターも何十カ所で止まってたそうです、こりゃたいへんです。気がつきゃ何もかんもが電気で管理されている現代の都会においては、ちょっとした停電もかなり大きなダメージを社会に与えるんですね。このへんのことをいろいろ書こうと思ったんですが、現代都市生活の構造をちゃんと把握しているわけでもなんでもないですし、わかった顔のゆるい情報番組みたいなコメントになるのもイヤなのでやめときます。そういうのはちゃんとした専門家がきちんと話す時間をゆっくり取るNHKのちゃんとした番組にまかせるとして、この金曜コラムはもっと身近でわかりやすい等身大の話題がいいのではないかといつも思っていますし、今回は特にそう思いました。なので今回のテーマは“とんかつの食べ方”です。(飛ぶねぇ〜)

みなさん“とんかつ”ってどうやって食べてますか。ザクッと揚がったなんとも旨そうな“とんかつ”、みなさんそのとんかつ全体にソースをだぁ〜ってかけるでしょう。ハッキリ言いますけど、それ間違ってます。

あれはたしか80年代中盤、私が大学卒業を目前にしたはいいがその後の進路が確定せず、とりあえずバイトとバンドを継続していた頃でしょうか。私の場合は仕送りもありバイトも結構ちゃんとやっていたので、お金がなくて困るということはなかったんですが、しかしバンドの練習スタジオ代や楽器類のローンなどに追われどちらかというとヒーヒー言ってる時代、たとえば一回の昼食は500円以内が通常でした。そんななか安くても600円越えの“とんかつ定食”は、「あぁぁ〜、なんかガツンと食いてぇ、そうだ“とんかつ”だ、どうしても“とんかつ”が食いてぇっ!」という時のみに食べる少し思い切ったメニューでした。

でっかいロースカツにキャベツの千切りがもっさり、御飯にみそ汁にお新香。当時の私はなんの疑いもなくその“とんかつ”全体にソースをどばぁ〜っとかけてました。でもってとんかつ・御飯・みそ汁ちょろ、ときどきキャベツ、忘れた頃に忘れてないよとお新香。基本的に「ガツンと食いてぇ」時に食べていたもんですから、味の濃いソースの勢いにまかせて食べ進んだ終盤にキャベツがけっこう残り、でも野菜もちゃんと食べなきゃいけないのでがんばってキャベツをたいらげ、最後に正直忘れてたお新香を忘れてたわけじゃないよと食べて終了。そんな感じだったもんですから、“とんかつ定食”を食べ終わると、満足感と同時になにかしらの疲労感めいたものにさいなまれ、「あぁぁ〜食った食った。でももうしばらくとんかつはいいかな」となっていました。

そんなある時、私は思いました。お寿司だって天ぷらだってざるそばだ〜って〜、みんなみんな生きているんだトモダチな〜ん〜だぁ〜♪、じゃなくて、お寿司だって天ぷらだってざるそばだって、口に運ぶ直前にしょうゆやてんつゆやそばつゆをちょろっとつける=“ちょろつけ”方式が常識です。しかしこの“とんかつ”はなぜか、最初にソースをどばぁ〜っと全体にかける=“全ドバ”方式が常識です。なぜ“とんかつ”だけは“全ドバ”なのか。“とんかつ”だって“ちょろつけ”のほうがうまいんじゃないのか。逆に考えてみるとどうだ、にぎり寿司全体にどばぁ〜っとしょうゆをかけた時の大将の顔を直視できるのか。天ぷらにてんつゆ全かけしたらなんだ、そんなもんただの味の薄〜い天丼のそれも御飯ぬきじゃないか。ざるそばなんか最悪だぞ、ざるの下からそばつゆがじゃぁぁ〜っと漏れて流れ出してあたふた、そんなもんいまどき外国人観光客だってやりゃしないぞ。と、意味もなく感情的になってみましたが、そのようなことをふと思い立ったわけです。

しかしとんかつ屋さんには“ちょろつけ”するソースの器など通常ありません。よし、思い切ってソース皿もらおう。ってことで勇気を出して「すみません、あの〜、こんなちっちゃいお皿、ひとつ。えぇ、そうです、そんなやつ、はい、どうも」と本来お新香を添えるための小皿を別にもらい、そこにソースをたらして、とんかつを一切れずつ口に運ぶ直前に“ちょろつけ”。この方式でとんかつを食べると、最後の一切れまで衣のサクサク感は失われることなく、またソース自体の消費量も“全ドバ”方式の約48%(イメージ)にとどめることができ、そんな心のゆとりから自然と食中の視野も広がって、キャベツやお新香も終盤に残すことのないバランス良いペース配分でキレイに完食。「あぁ〜美味しかった。また食べたいね“と・ん・か・つ”」となったわけです。以来20年、“とんかつ=ちょろつけ”は私の中では常識、当然のような笑顔でソース用の小皿を要求しています。

な〜んで、こんな単純なことを誰も思いつかないんでしょう。
いや、きっとみんな心のどこかで気づいている。きっとそのほうが良いに決まってる、とずっと前から感じているはずです。しかし「すみません、ちっちゃいお皿・・」のひとことが言い出せぬまま“全ドバ”方式に泣き寝入り、ソースまみれのとんかつに結果的にゲンナリ疲労感を感じているのです。でももうだいじょうぶ。がんばって、負けないで。「すみません、ちっちゃいお皿・・」そんなほんの小さな勇気があなたの“とんかつライフ”を変えるのです。そしていつの日か全国どこにいっても、だまっていてもとんかつにはソースの小皿がつくのがにっぽんの常識となった時、私の仕事は終わりです、静かにこの世界から身を引きます。(意味不明)

さぁ、どうですか今回のコラム、ためになったでしょう。次回は“しゃぶしゃぶのカッコイイ食べ方”です。(ウソです)

2006/08/18


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