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Friday Column

No.110

『広辞苑をつまみに酒を飲む』

今週のこの金曜コラムをなんとかお昼までにアップしなければと書き始めた現在は22日、金曜日の朝です。お、6月22日って『ボウリングの日』じゃないか!?と今頃気づいて調べてみたらやっぱりそのとおりでした。なんだよ、なんで気づかなかったんだ。ボウリングだったら書くこといっぱいあんのに、イヤしかし、ボウリングについての数多くの思い出やエビソーダ、自身で考案した新しいボウリングのカタチ、21世紀のボウリングのあり方、ボウリングと世界平和、ボウリングと思春期の性、などあたまに充満しているボウリングへの想いをここからの数時間でまとめて書きあげて、そこにイキな写真を添えてアップするにはあまりにも時間がなさ過ぎる。やっぱり昨日の夜遅くになんとなく思っていたことを落ち着きどころも定まらないまま書いてみるしかありません。でもさっき一応写真は撮っときました。

とまぁそんな6月22日朝、東京は雨が降ってきました。ふだんはあまり雨を歓迎しないタイプの私ですが、この時期、頭の中がず〜っとじっとり雨ですから、そう、作詞です。いやぁ、こうしていつも作詞=じっとりみたいなことを書いているとイヤイヤやってるように聞こえるかもしれませんが、別にそういうわけではなくて、作業のタイプとして“じっとり”しているというか、例えば、讃岐うどんはシコシコで、ティーンの肌はツルツルで、おいしい唐揚げはサクッとジューシーで、というのと同じノリで作詞という期間を形容するならば私の場合“じっとり”であるだけの話で決してイヤイヤなわけではありません。モノを作るってのはおおかたそんな感じなんじゃないでしょうか。

それにしても、歌詞を作ることが私の仕事に於いて最も重要なファクターのひとつになっちゃってるわけですから、人生なんてわかんないもんです。オリジナル曲を作るようになったのは高校生の時ですが、そんときの歌詞は、誰が誰にふられたとか、誰が原付の免許落っこちたとか、友達うちの話ばっかを友達うちで遊びながらつくってました。大学生になってからは、知らない人に聴いてもらう前提でのポップスめいたものを作り始めましたが、その手の歌詞を自分で書くという発想は全くなかったもんで、ってゆうか自分の思いをメロディにのせてうたうなんて、うわっ、はじゅかちぃ、そんなことするくらいだったらお尻だして歌ってたほうがよっぽどスッキリするよ、という考え方で歌詞はすべてバンド内外の友人になんとなく書いてもらうってことでやりすごし、たまに気がむいたら自分で辞書を引きながらなんとなく英語で埋める、そんなような実に中途半端なアマチュア時代を過ごしました。それがデビューした後、せっかくだからと歌詞を書き始め、今となっては歌詞なしには私の仕事は成立しない、みたいなことになっちゃってるわけですから、この先もなにがどうなんのかわかりませんね。

そういうわけでとにかく今は自分の作ったメロディに歌詞を書いて、それを世に出して聴いていただいて、「さすが、KANちゃん、いいねぇ」と言われたい、できればできるだけ多くのみなさんにそう思われたい。で、歌詞の内容についてインタビューされたら、「いやぁ、あくまで音的なもんで、言葉のノリですからねぇ、意味合いは聴く人それぞれの解釈でいいんじゃないですかねぇ」とスットボケたい。そんなスタンスで今日もじと〜っとしているわけです。

90年代のほとんどの歌詞は酒を飲んだ状態で書いてたものでした。だって、表向きは理性の塊みたいな“日本一の英国紳士”の私ですから、通常の状態では脳みそにがっちりカギがかかってて、歌詞書こうったってなぁ〜んも出てきやしません。これが酔っぱらうと頭の中もだら〜っとだらしなくなって、あることないことだらだらといろいろ出てくるわけです。酒を飲みながらまだ歌詞のないラララのデモテープをなんかないかなぁ〜と聴き、いい感じに酔っぱらってきたころに出てきた言葉をノートに書き留めて、眠たくなったら寝る。で、次の日シラフでノートを見てみると、ほとんどは何書いてるかわかんないものばかりで、字にすらなってなかったりすることもありますが、そんななかにたまぁ〜に「ほぉ、そんなこと思ってたんだ、オレ」みないな意外なフレーズがあったりしたらもうけもん、ってことで保存。で、その晩もまた飲んでだらだら書いて、みたいな繰り返しでつなぎ合わせていつかそのうち歌詞になる、そんな感じでした。

しかし、21世紀になってくるとそのやり方も変わってきました。ってゆうか昔ほど酒飲めなくなってきたってのもあるんですけど、食事の時にワインのんだらとりあえずそれで完結しちゃいますから。なので最近は天気のいい午後にフランス式カフェでエスプレッソでも飲みながら歌詞を書くなんていうナウでトレンデーなこともたまにやったりはしますが、しかし酔っぱらった状態のほうが頭が柔らかいことに変りはなようなので、基本はやっぱり飲みながら書いてはいます。

書き留め方法も変わりました。90年代まではラジカセとかMDとかでデモテープを聴きながら、出てきたフレーズを作詞用のノートに書き留めるやり方。同じページに複数の別の曲のフレーズが混在してたり、1曲が完成するまでに何ページもの紆余曲折があったり、その経緯をあとで見返したりもできたんですが、最近は違います。作ったデモ音源を【iBook】の中の【iTunes】に取り込んで、それをヘッドフォンで聴きながら、同じ画面上の【Word】で歌詞を書く。ふっ、なんだかまるでニューヨーカーです(行ったことないんでなんとも言えませんが)。【Word】だと、なんとなく入力したフレーズがいちいち整った書体で表示されるもんですから、妙に“歌詞っぽく”見えたりして、これが良いことなのか悪いことなのか自分でまだわからないんですが、作詞作業になにかしらのテンポ感が出ている感触はあります。

しかし歌詞を部分修正する場合は、ノート書き留め時代のようにガーッと横線を引いてその上に書き足すとか、次のページに直しを含めて頭からあらためてダーッと書いてみるなんてことはなく、【Word】だと修正部分を削除して入力し直しますから、没にしたフレーズや言い回し、完成するまでの経緯が残っていかないのはちょっと悲しいです。もちろん、すべての時点の歌詞を保存しながら、その経緯を必要に応じて振り返ることは可能でしょうが、ファイル数が膨大になり、その整理のほうがうっとおしくなりそうです。なので今は最新版しか残らない方法でやってますが、やっぱりどっかのタイミングでノート書き込み方式に戻そうかなと思ってます。

そんな私の中での時代の変化に関係なく昔から飲酒作詞の友でい続けているのが【広辞苑です】。


広辞苑 第五版 岩波書店

べつに、誰も使わないようなムヅカシイ言葉を歌詞に入れて「げ、アタマいいんじゃん」と思われたい、とかそんなわけではなく、日常会話で何も考えずに使っている言葉や、メディアなんかでよく使われる流行りの言葉なんかを、「それってもともとどういう意味?」とか思って調べてみたりしてると、たまぁ〜に「ええ、そんな意味だったんだぁぁぁ!」なんてこともあったりなかったり、って感じで改めて意味を噛みしめながら歌詞を書くみたいなことです。これがね、いいんですよ。なぜって、この【広辞苑】を見ながら酒を飲んでると、ベロベロに酔っぱらったとしても、なんだかちょっとアカデミックに酔ってる感じ? がする? そんな意味不明の“オレは悪くない感”があります。また、調べて調べて「へぇ〜、そうだったんだ、知らなかった〜!」なんて発見も、飲んで酔っぱらってるわけですから次の日にはキレイサッパリ100%おぼえてないってのが潔くて男らしいじゃないですか。でまた数日後に同じ単語を新鮮な気持ちで調べて「あぁ、これ、前も調べたよなぁ〜」と懐かしみます。そんなことを繰り返してると、どこかでだれかに「○○○ってどういう意味なの?」と聞かれて、「あぁぁ、それねぇ、3回調べたことあるんですけど、なんだったっけなぁ、うぅぅん、覚えてないなぁ。でも3回調べましたよ、3回、それは確か。」なんてこともしばしば。

【iBook】で【iTunes】と【Word】でやってんだったら、辞書だってインターネットでいいんじゃないの、とお思いの方もいらっしゃることでしょうが、それが違うんですね。この広辞苑に限らず、辞書には、調べようとする目標の語の周辺の関係ない言葉まで目に入っちゃうという、いわゆる“あそび”という素晴らしいものがあるのです、これが楽しいんです。『プラズマ』を調べるつもりがその右斜め上に『ブラジャー』を見つけ、「へぇ、ブラジャーってフランス語なんだ」と感心し、『キャパシティ』を調べてたつもりがその左斜め下に『キャミソール』を見つけ、「お、これもフランス語」と確認し、『ランゲルハンス島』を調べるつもりが案の定その真下に『ランジェリー』を見つけ、これもフランス語であることにはもはやビックリしなかったものの、その『ランジェリー』と同じ段に『乱交』『乱射』『卵子』までもが整然と並んでいることに甘く身の危険を感じ、しかもそれまで考えもしなかった『乱婚』という言葉まで発見してしまうという、酔った脳さえその気になればかなりエキサイティングなアトラクションなのです。

はぁ〜い、もうお昼過ぎちゃったので時間切れ、この状態でアップします。

でもね、広辞苑をつまみに酒を飲む、楽しいですよ。いや、楽しめるようになるまで多少の時間はかかると思いますが、作詞をする人もしない人も、よろしければ是非お試しを。


次はどんな言葉に出会えるか

2007/06/22



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